1-13. 贈

サラ、おまえの言うとおり

特別な日におまえのワインを開けた

 

サラ、おまえは余計なことは

何一つ言わなかったけれど

 

私たちが愛し合っているこ

ずいぶん前から分かっていたのだね

 

私自身が気付かなかった私の心も

この恋も全部知っていた

 

サラ、私はおまえの分も苦しんでいるよ…

 

不思議なほどに彼を愛している自分に

狂うおしくなるほど彼の唇を想う自分に

 

自分ではどうにもできない心

抑えきれない心

 

長い長い時間をかけて

ようやく気がついた

 

もう、離れない…

 

サラ、おまえが味わった痛みも全て私が受け止めよう…

この恋に私の全身全霊をささげよう

 

「…をうたわせてくれないか?」

 

おまえに包まれたまま

サラから贈られたを口ずさむ

 

…モーツァルト

賛美歌をあなたたちに贈る…

ラウダーテ・ドミヌム(主をほめたたえよ)…

 

「これは私たちの誓いのだ」

 

「もし、記憶がなくなっておまえのことを忘れてしまっても」

「この歌で私は全ての記憶を取り戻すだろう」

「そして、いつかおまえと共に終える人生をこの歌で締めくくる」

 

「お前が先に逝ったとしても、私が先に逝ったとしても」

「この歌を贈る」

 

私は言う

そして、おまえは黙って頷く

 

歌い終えた私に

おまえは優しく唇を重ねる

 

柔らかく温かく包み込み忍び込む

舌と舌が絡み合い

熱い吐息が漏れる

 

一度、快感を知ってしまった女は弱い…

 

愛している男なら尚更のこと

 

一度、惜しみながら唇を離し

おまえを見つめる

 

「俺のキスは嫌いか?」

 

「立っていられなくなる…」

とは言えずにうつむきおまえの胸にもたれる

 

「…このまま…朝が来なければいいのに…」

 

本心が口から零れ落ちる

 

「…でも…」

 

でも、私にはやりとげなければならないことがある

身分を越えて、人として

それは、私がやらずして誰がやるのか

私自身が信念を持ってやりとげなければならないこと

 

何も言わない私の心を読んだかのようにおまえは言う

 

「…手伝うよ」

「どんな時も、何が起きても」

「おまえのそばにいるよ」

 

力強い腕が

私を抱きしめる

 

「何も言わなくてもおまえは私のことが良く分かるのだな」

 

「どれだけ一緒にいると思ってるんだ?」

 

万が一、私が道を誤ったらおまえはどうする?」

単刀直入に聞いてみた

 

暫く考えてから言う

「…死んでも阻止するかな…」

 

「懸命な答えだ…私より先に死んでもらっては困る…」

おまえを見上げて笑う

 

「…一緒だよ」

「…何があっても、何が起きても…」

「ずっと一緒にいる」

 

おまえはそう言ってまた唇を重ねる…