1-1. 序~Prologue~<R-18>

「こわい…」

 

「…怖くないから…」

 

私を見つめるおまえの瞳は限りなく優し

そして温かい

 

おまえは私を軽く抱えあげると

そっとベットに横たえる

 

私の心の奥底に忍び込み

私の全てを包み込む唇

 

湿気を帯びてでも

どこからか青草のようにさわやかな香りを放つ肌が

触れる

 

私に密着する温かい肌

初めて感じる人の重み

 

私の存在全てを包み込む

大きな背中に手をまわす

 

おまえの全てが欲しい…

 

私はおまえの唇を激しくせがむ

 

躊躇なく重なる唇

私の刹那も想いも全て包み込んでくれる

 

探りあい

与えあい

愛を確かめ合う

 

永い間絡み合ったその唇が

私から離れる

 

おまえの離れた唇が

私の耳から首筋をそっと這う

 

そして

 

やわらかい胸の

小さく突起したそれに触れる

 

「…あ…」

小さな波が全身を襲い

私は身悶える

 

おまえのその唇は

私のやわらかい突起を含んで弄ぶ

 

おまえの右手がもうひとつの突起を探る

 

「…あ…やめ…」

言葉にならない

 

悦びとは…

こういうものなのか

 

私はおまえの全てを受け入れる

なにも否定せず

なにも拒絶せず

 

そして…私の全てをおまえのものに…

 

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緊張のあまり硬く閉ざされた私の膝の隙間

掻い潜るかのように

おまえの手がそっと割り入る

 

「…や…」

私はおまえの指を拒絶するかのように

膝に力をこめる

 

「…愛しているよ…」

おまえの耳元でささやく甘い声

 

その一言で私の緊張は解きほぐれ

そして、全身の力が抜けていく

 

そう…何もこわくない

おまえに私の全てを委ねるだけ

ただ、それだけでいい

 

私の緩んだ膝の間を這うように

誰も触れたことのないその秘部

おまえの指が触れる

 

「…っ…」

 

程よく厚みのあるおまえの大きな手

 

馬の手綱を操る指

剣を握る指

ワインのコルクを開ける指

 

私の涙を拭う指

私の指と絡む指

私の顎を上げる指

 

 

いつもやさしいおまえの指が

いつもと違う

 

誰にも触られたことのないそこを

おまえはそっと…撫でる

 

「…っ…ふっ…」

 

自分の意思とは全く無関係に

声にならない声が溢れ出る

 

快感を受け入れる度に

小さい波が全身を襲う

 

何もかも

初めてのことを

受け入れている私の身体と心

 

「あぁ…や…」

 

「…やならやめるか?」

おまえがまた耳元で甘く囁く

 

私は首を横に振るのが精一杯だった

 

永い愛撫を受け入れる私は

おまえの首筋に腕を回し

精一杯抱きしめる

 

初めて経験する

鋭い快感に身を任せる

 

「これは…いやか?」

 

無言で首を横に振る

 

何度も何度も

その一番感覚の鋭い場所を

突かれ撫でられ

 

身体中から溢れ出そうな何かに

身もだえしながら

 

行き場のない快感に

私はおかしくなりそうだった

 

打ち震える身体、押し寄せる快感から逃れるために

私の心は現実を見つめ冷静になりたいと願う

 

心の隙間にふと過ぎる思いを口にする

 

こんなことを…どこで覚えたのだ…」

 

私は言葉を続ける

 

「…ひょっとして…パレ・ロワ…」

言い出した唇を塞がれる

 

「…おまえだけだ…」

おまえはそう言いながら

 

おまえは吸い付くように熱い唇を重ね

私の鋭い場所をまさぐる

おまえの右手の動きは止まらない

私はもうおまえの言いなりになる他ないみたいだ

 

うそ偽りのない黒曜石色の瞳が私を見つめる

 

おまえの手が規則的に動くたび

私の身体に快感と共に温かい波が訪れる

 

この快感を受け入れ愉しむことに

私は今、心の底から悦びを感じている

 

「…あっ…あっ…」

突然、衝動が身体を突き抜ける

つま先から身体が痺れ、頭の中が真っ白になる

 

何だ…初めて味わうこの快感は…

 

「果てたみたいだよ…」

おまえが耳元で囁く

 

そうなのか…これが果てるという感覚なのか…

 

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果てたばかりの敏感な私の身体を

おまえは容赦なく愛撫する

 

首筋から胸へ

胸から腰へ

私を確認するかのようにおまえの唇が身体中を這う

 

「…ふぅ…ぁ…」

 

私は快感に耐えられず

おまえから離れようと思わず腕を伸ばす

 

「逃がさない…」

そういうや否や

おまえは左手ひとつで私の両腕を掴み

私を羽交い絞めにする

 

「…怖いか?」

おまえは悪戯をする子供のように笑う

私がおまえにしてきた悪戯をお返しされているみたいだな…

 

握力も腕力も

もう、素手ではおまえに叶わないのは分かっている

観念したように私はおまえの目を見つめ首を振る

 

「…怖くなんてない…」

「おまえをこんなにも愛しているのに…」

 

「俺も愛しているよ…ずっとずっと前から」

おまえは言う

 

「今、俺はおまえとひとつになりたい」

「今まで耐え忍んできた時間をおまえと共に取り戻したい」

 

人を愛するという苦しみを知った私の心は

ずっと前から苦しんできたおまえの心が

今なら分かる

 

私はおまえの言葉に頷く

「私もおまえの想いに応えられなかった時間を共に取り戻したい」

 

私を覗き込むそのいつも一緒にいたおまえの顔を

客観的に見つめ

 

シャープな輪郭

整った目鼻立ち

黒曜石色の瞳

漆黒色のやわらかい黒髪

 

「…おまえはよく見るとハンサムだな…」

 

「…よく見なくてもハンサムだよ…って…」

「姪っ子殿と同じ台詞を言うのは止めてくれ…」

「アレを思い出しただけで何だ寒気がする」

 

ただ大人しくしていればいいものをちょろちょろと動き回り

いつもトラブルを運んでくる

私の愛すべき姪っ子

 

まさか私と同じ事を言ったのか…血は争えんな…

でも、好きなタイプが同じだとは言わせんぞ…

「…ル・ルーか?」

 

名前を聞いておまえはギョッとした顔をする

「心配するな…あいつにお前を譲る気はさらさらない」

 

おまえは笑って言う

「おい、俺はモノじゃないぞ」

「第一、おまえの面倒を見るだけで精一杯だよ」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

おまえの溶けるように甘い唇を受け入れると

魔法に掛かったように私の身体から少しずつ力が抜けていく

 

おまえの優しい右手が

私の膝の間に押し入る

 

黒曜石色の瞳を見つめながら

私は次の動きを待つ

 

程よく受け入れ体制にあった私のそこに

少しずつ長いおまえの指が押し込まれる

 

「…ぁ…は…」

 

「痛いか?」

心配して私を覗き込む顔

私は頭を横に振るのが精一杯で言葉が出ない

 

「まだ、少ししか入ってないから」

私はおまえを見つたまま小さく頷く

 

女という生き物は

愛することにどれだけの痛みを伴い

愛することにどれだけの時間を割き

愛することにどれだけの心を捧げるのだろう

 

愛している人に愛していることを伝えるために

どれだけの努力をしているのだろう

 

アダムとイブが生まれた時から

愛し、愛されることは必然となった

 

私も神のご加護の元にこうして営みを得られるのだ…

そして、私の痛みを少しでも和らげ共有しようとしてくれるおまえの存在を

本当に本当に愛おしく思う

 

愛した人がおまえでよかった…

おまえを見つめる

 

私の中へ押し込んだ指を

おまえは少しずつ深める

 

「…はあっ…」

痛みと疼きが交互に訪れる

私の心と身体が別々になりそうで怖くなる

 

思わずおまえの腕を掴む

 

「いつも通りに息をして…なにも怖くない…だから…俺を受け入れてくれ…」

おまえは耳元で優しく囁く

私は目を閉じて頷く

 

心が落ち着くとに痛みが走る

「あ…が…痛い…」

 

「あ…すまない」

おまえは慌てて左手で押さえ込んでいた私の両手首を離す

 

私は自由になった身体を少し右側に向け

右腕をおまえの左脇に押し込める

 

私の目の前にある

おまえの温かい首筋に唇を這わせる

 

「…っ…こら

「ふふ。しかえしだ」

 

私は笑いながら

優しいおまえの左胸に顔を埋める

 

「ひどいことするぞ?してもいいのか?」

 

子供の頃、私がおまえにかまってもらいたくて

あまりにもしつこく付きまとうものだから

私が本気で嫌がることを分かっていながら

おまえが私に対してお仕置きついでに言った台詞を思い出す

 

久しぶりに聞く台詞だな…できるのか?」

 

「…くすぐるぞ」

「わっ!やっぱり!それだけはやめろ!」

 

お前は私がギブアップするまで止めないお仕置きを

ここでするつもりか

 

「こんな時に俺をおちょくっていいのか?」

おまえは私の中に押し込んだ指を少し上に持ち上げる

 

「あぁ…いや…」

 

悶える私の呼吸に合わせてながら

おまえは私の奥まで入った指を少しずつ動かす

 

私は押して寄せる波のような快感を受け入れる

おまえの指が入ってくるときの満ちたりた感覚を

おまえの指が出ていくときの塞き止めたい感覚を

 

閉じた瞳の中で私はじっくりと味わっていた

おまえの指は私の身体を完全に支配した

 

おまえは時々、私の意識を確かめるように唇をかさねる

 

私の中でおまえの指がそこを探り当てた

突然…足の先に電気が走る

 

「…ぁ…はぁっ」

押し寄せる快感に身体がのけぞる

 

「あぁ…あぁ…」

無意識に叫びにも似た声を発する

閉じた瞼の奥に光が走る

 

おまえの指をどこまでも吸い込もうとする私の一部…